フットボールとパンクロック~England’s Burning~


皆さんはパンクロックという音楽をご存知だろうか。

知らねえよそんなもんと思った方も、一度くらい街でこんな柄のTシャツを目にしたことがあるはずだろう。

パンクロック1

 

フットボールとパンクの結びつき

「パンクって何?」という問いに的確な答えを返すのはコアなファンでもけっこう難しい。

そもそもパンクとはその音楽性を形容する言葉ではなく、個人の性質や生き方、ファッションスタイル等をひっくるめた非常に曖昧な定義の上に成り立っている、とても自由で繊細でめんどくさいシロモノなのだ。強いて言うなら、怒りや嫉妬、反骨精神などから生まれるエネルギーを原動力にした音楽といった感じだろうか。

 

ご存知の通り、イングランドは近代フットボール発祥の地であるが、それと同時にパンクロックの聖地でもある。

どちらも若者や労働者階級を中心に支持された70年代を代表するユースカルチャーであり、お互いに影響を与え合ってきた。
それ故に、両者の間には切っても切れない結び付きがあるのだ。

 

ロンドンでパンクロックが一大ムーブメントを巻き起こすきっかけを作ったバンド、Sex Pistols

パンクを知らなくてもピストルズという名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。

上の映像に出てくる怪しい雰囲気の観客たちをよく見てみると、ゴール裏で飛び跳ねて応援しているサポーターにどことなく似ているような気がしてこないだろうか。心なしか目がイッてた奴らが居たかもしれないが、まあそれは別として。

これは「ポゴダンス」と呼ばれるもので、当時のパンク界隈で流行したモッシュのひとつだ。ヤク中で楽器がほとんど出来なかったのでとりあえずベースで客を殴っていたというイカれた逸話を持つベーシスト、シド・ヴィシャスが発明したとされている。

 

 

前述のとおり、パンクとフットボールは庶民の娯楽として互いに影響を与え合っていた。ということは、Jリーグでも一般的な歌に合わせて飛び跳ねる応援スタイルは、もしかするとパンクから受けた影響の名残りという可能性も考えられるわけだ。だとすると、僕達が毎週のように椅子の背もたれに脛を強打し悶絶しているのはシド・ヴィシャスのせいということになるのかもしれない。

他にも、Cock Sparrer の「England Belongs To Me」、Blitzの「Someone’s Gonna Die」、Stiff Little Fingersの「Back To Front」などはフットボールの場面でたびたび登場する曲だし、それらを集めたパンクのコンピアルバムもいくつか存在する。ウルトラスの間で現在も使われている”A.C.A.B.(All Cops Are Bastards)”という言葉をポピュラーにしたのも4-Skinsというパンクバンドだ。これらの例をみても、イングランドのフットボールカルチャーのなかにパンクロックが浸透していたことが窺える。

 

 

フーリガンとパンクロック

また、暴力を目的にスタジアムヘ通うフーリガンが英国全土で隆盛を極めた背景にも、パンクロックの影響を垣間見ることが出来る。

パンクスの一種で、坊主頭にドクターマーチンのブーツで揃えたスキンズと呼ばれる若者達がいた。彼らの多くは階級制度の最下層であるワーキングクラスに属し、社会への不満をスタジアムへ持ち込みフーリガンと呼ばれるようになった。今や世界的な人気を誇るビッグクラブであるチェルシー、アーセナル、マンチェスターシティなども、当時は凶暴なフーリガンたちに手を焼いていたほどだ。

スキンズ達は当初レゲエやスカを好んでいたが、パンクの一種で「Oi」と呼ばれる音楽が登場すると、次第にそちらのほうへ傾倒していくことになる。フーリガニズムや愛国心、労働者の日常などについて歌う曲が多いのも特徴だ。ちなみに、曲中でオイオイ言ってるからOi。嘘ではない。

 

なかでもSham69は、チャントを模倣したシンガロングスタイルをパンクに浸透させ、Oiというサブジャンルを確立した先駆者的バンドだ。

代表曲のひとつである「Hurry up Hurry」は「Hurry Up England」としてドイツW杯のイングランド代表公式応援ソングに使用された。地元のWalton and Hersham FCが69年に優勝した際に残された落書きがバンド名の由来である。

警察から徹底的にマークされていたというイーストエンドのフーリガン集団InterCityFirmの主要メンバー、ジェフ・スティンキー・ターナー率いるCockney Rejectsは熱狂的なウエストハム・ユナイテッドのサポーターとして有名だ(Oiとは当初彼らのことを指す言葉だった)バンドリーダーのスティンキーは少年時代から現在まで足繁くアプトンパークへ通っている。彼はアマチュアボクサーでもあり、若い頃はもちろん戦闘要員だったようだ。

1980年にはウエストハムのアンセムであるI’m Forever Blowing Bubblesのカヴァーをリリース。彼らの忠誠心が認められたのか、クラブからは名誉サポーターのような待遇を受けており、クラブの公式サイトにもたびたび登場している。12-13シーズンのバーミンガム戦では試合前にピッチサイドでスタメン発表アナウンスまで担当した。

勿論ただの不良集団という訳ではなく、彼らのアルバムはOiの名盤として現在でも聴き継がれている。

たまにTVショーに呼ばれてもこの調子である。

 

 

売春婦にしかゴールを決められないクソ野郎

The Businessも同様にウエストハムへ忠誠を誓うバンドだ。

”Hardcore Hooligan”といういかにもなタイトルのアルバムには「サウスゲイト」や「ボビー・ムーア万歳」といったレジェンドの名を冠した曲が並び、英国フットボールの賛美歌集のような作品になっている。「マラドーナ」という曲もあるが、歌詞は「今やお前は売春婦にしかゴールを決められないクソ野郎だ!」というもの。神の手と5人抜きがよほどトラウマだったのだろうか。

ウエストハムの対抗勢力といえば悪名高いBushwackersを擁するミルウォールFCだろう。 “ミルウォール・ロイ”ことロイ・ピアース率いるThe Last Resortなどが代表的なバンドだ。アメリカ人だがRancidのラーズ・フレデリクセンもミルウォールファンを公言している。新聞紙を何重にも折りたたんで作るミルウォールブリックは人も殺せる隠し武器としてフーリガンから愛用され、護身術を紹介するサイトが太鼓判を押すほどの破壊力を誇る。

両軍のサポーターはテムズ川を挟んで長い間いがみ合いを続けている。スタジアム周辺の規制が厳しくなった現在でも、依然としてミルウォール対ウエストハムは対戦する度に怪我人や逮捕者が出る危険なカードだ。

前述のCockney Rejectsも、ミルウォールやレイトンオリエントをはじめとするライバルクラブのサポーターから頻繁にライヴを襲撃されており、そのたびに観客を巻き込み、演奏そっちのけで大乱闘を起こしていたそうだ。現代の日本でのんびり暮らす僕には理解に苦しむ話だが、このエピソードは、当時のアンダーグラウンドシーンがいかにカオスな状況だったかをよく表していると思う。

恐ろしいことに、70~80年代のリアルな時代を生きていたパンクスの半数以上はキチ◯イかクソバカ野郎だと思って差し支えない。

パンク2

左Cockney Rejects、右The Last Resort。ロイさん、怖すぎる。

全盛期を過ぎたとはいえ、フーリガンが完全に居なくなったわけではないし、今でも世界各地でサポーター同士の衝突事件が発生している。
フットボールが人々の闘争本能を掻き立てるのか、荒くれ達が砂鉄のように引き寄せられるのかは分からないが、黎明期から競技中に死者が出るほど暴力的なスポーツだったというフットボールから暴力を完全に排除することは不可能なのかもしれない。

もっと彼らの生態を知りたいという物好きなお方は「The Football Factory」という、どうしようもない映画があるので探してみてほしい。

いくつかの凄惨な事故を経て90年代初頭に立ち見のテラス席は廃止され、新設されたプレミアリーグは観光客で溢れる世界屈指の人気リーグへと上りつめた。綺麗に整備されたスタジアムで快適なサッカー観戦を楽しめるようになった反面、ビジネス主義の台頭によってクラブが地元ファンの手を離れ、かつてフットボールが持っていた熱が失われてしまったという声もある。

 

 

サッカーに暴力が必要だとは思わない。

僕らは決して殴りあうためにスタジアムヘ通っているわけではないし、カフェでお茶を飲んでいる最中に窓からスモーク弾をブチ込まれるのも御免だ(本当にそんなことがあるのかは知らないが)。

イングランドのスタジアムでは相変わらずウィットに富んだチャントが飛び交うし、勝利で上機嫌なサポーターたちが歌いながら帰路に着く光景は素晴らしいものだ。フーリガニズムが割って入る余地はそこには存在しない。

 

一方、年月が経つにつれてパンクロックから反社会的なイメージは消え去り、ドライブのBGMに合いそうな爽やかで明るい音楽としてすっかり世間に受け入れられた。昔ながらのパンクロックはマニアックな音楽として隅っこに追いやられ、モヒカン頭に革ジャン姿の由緒正しきパンク野郎は今や絶滅危惧種になりつつある。それも仕方がないことなのかもしれない。世の中が変われば文化も変わるものだから。

しかし、自ら体験することが出来なかったものだからこそ、イングランドが最も燃えていた時代の無秩序な熱狂に想いを馳せずにはいられないのだ。たとえそれが歪んだ負の感情から生まれたものだったとしても。

石井一樹 @ishii__kyks58er

パンク3


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